4月29日 晴れ
2002年に貴重な体験をさせて頂いたエピソードをご紹介したいと思います。
(以前にも1度ご紹介したかと思いますが・・・改めて・・・)
人形界に於いての大御所といえば、一番に名前が挙がるのが「辻村寿三郎」氏です。
NHK人形劇「新八犬伝」などで有名な日本を代表する「大先生」であります。
2023年、89歳でお亡くなりになりましたが
日本中で知らない人は誰一人いないでしょう。
氏の故郷である広島県三次市の歴史民俗資料館・辻村寿三郎人形館でも有名です。
三次市にお戻りになるまでは、東京人形町の工房で人形を作っておられました。
その工房は誰でも自由に見学ができ、制作中の人形を見ながら
先生と自由にお話ができるという、超レアな楽しい空間で、いつも賑わっていました。
人形についての貴重なお話を気軽にしてくださり、懐の深さ、温かさが感じられ、
大きな人間に包まれているような不思議な空間でもありました。
ファンの一人として、東京に行った時はなるべく訪れるようにしていました。
工房の奥には少し高くなった2~3畳ほどの小さな畳敷きの部屋があり
人形が数体展示されていて、時々、それら人形のパフォーマンスが行われたり
階段を上がった2階には、テレビで見覚えのある人形がズラリと並んでいて
その迫力にはいつも圧倒されるばかりでした。
ある時、結髪に関するお話をしてくださった後、帰り際に
「結髪するんなら、これ、使ってごらん」
と言って、髪用の黒い糸を少し分けてくださいました。
「えっ!・・この私に?」
見学者のひとりに過ぎない私に・・信じられませんでした。
まるで夢のよう!!
何という懐の深さ!!
正に奇跡!!
込み上げてくる人形への熱い想いと感謝とが入り混じった
言葉では形容しがたい幸福感に浸りながら、
心躍らせ、満ち足りた思いで帰路に着いたのを覚えています。
早速、その糸を使って「立て兵庫」を結い上げ
江戸の粋な姉御肌をイメージして、作品【夢草紙】を作り上げました。
<川崎裕子人形写真集【夜想曲】掲載作品>
残りの糸は今も大切に保管しています。
<辻村寿三郎氏から分けて戴いた貴重な髪用の黒糸>